アサラボ物語(界隈 1-2) 週刊八流 vol.02
~今週は特別編成です~
2015.09.14 コトフォトライフ
<一流でも二流でもない、八流教授の研究室物語<週刊八流>より>
週刊八流 2015年8月20日号-2
アサラボ物語(界隈 1-2)
建築家が主役の小説「犬博物館の外で」が出たとA教授が話すと、
学生達は競ってその本を求め読み始めた。
1991年、建築家磯崎新の大規模な回顧展が開かれた。
見るべきものとしてA教授は学生達に紹介した。
いつも率先して情報に飛びつき実行する学生Fがバルコニーで報告した。
「見に行ったんですけど、少しも面白くありませんでした。両親も文句言ってました。」
「なに、ご両親といったの!」
「そう、東京見物のついでに」
難解な建築理論をかざす磯崎新と、建築に全く縁のない学生父母のミスマッチはみんなの笑いを誘った。
そんな笑いの一隅で水野修一も吹き出すのをこらえていた。
水野もその展覧会を見ていたため、 Fのご両親の戸惑っている様子が想像できたのだ。
水野は冷静に相手を観察し着実に行動する学生だった。
バルコニーで話題になった本もイベントもすべてクリアーした。
内に秘めたやる気は自分より偏差値の高い大学に入学した弟に対する競争心だった。
このまま終わるわけにはいかないと。
3年生のゼミナールで水野修一はA教授を選択した。
最初の自己紹介でそれまで京都出身といっていたのを、
正確に京都府向日市といった。
みんなはどこそれという顔をした。
京都市に隣接する町とはだれも知らなかった。
「向日市?」
と聞き返したのはA教授だった。
ちょうど京都の大工職人を調べていたA教授にとって大工町向日は重要なキーワードだった。
京都伝統建築技術を支える安井杢工務店がある町だ。
この工務店は桂離宮の修復工事を終えたばかりで、
さまざまな場面で情報発信をしていた。
水野との会話が弾んだ。
ゼミナールのテーマは「風土と建築」だった。
4年生になり水野はA研究室で街並みを課題にした。
京都の町家を基本に、古い集落の街並みの魅力を解き明かそうとした。
デザインコードの抽出だけではなく、生活空間として街並みをとらえたかった。
卒業論文は「街並みの界隈性を形成する要素」となった。
大学院進学を決めていたため、心置きなく卒業研究に打ち込んだ。
水野達が卒業の年、1995年1月17日、阪神淡路大震災が起きた。
(* 登場する氏名は仮名です。 続く 野平洋次)
【文:八流教授 写真:コトフォトライフ】
八流のブログ
http://ameblo.jp/fujizakura-no8/
~いつも訪れて頂いている皆様へ~
いつもありがとうございます
私の学生時代の恩師のブログにて、温かいメッセージを授かりました。
今週は、そのブログを原文のまま、掲載させて頂きます。
当事者間のものであり、お見苦しいところもあると思いますが
ご了解頂きたく、お願い申し上げます。 2015.09.13 コトフォトライフ
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